「人間万事塞翁が馬」の話を聞いて
朝位 真士
「人間万事塞翁が馬」は中国の故事に基づきます。単に「塞翁が馬」ともいいます。中国北境の塞(とりで)近くにいた老人(塞翁)の馬が胡の地方に逃げ、人々が気の毒がると、老人は「そのうちに福が来る」と言いました。やがてその馬は、胡の駿馬を連れて戻ってきました。人々が祝うと、今度は「これは不幸の元になるだろう」と言いました。すると胡の馬に乗った老人の息子が落馬して足の骨を折ってしまいました。人々がそれを見舞うと、老人は「これが幸福の基になるだろう」と言いました。1年後、胡軍が攻め込んできて戦争になり若者達はほとんど戦死しました。しかし足を折った老人の息子は、兵役を免れたため戦死しなくて済みました。人間は「じんかん」とも読み、「人類」ではなく「世間」を意味します。
この故事は中国の古い書物『淮南子(えなんじ)』に書かれているようです。この話をユーチューブで山中伸弥博士より聞き、大変感動しました。彼自身の医者として、生物学者としての経験について、ユーモアを交えて赤裸々に語られました。ノーベル賞受賞までの年月を正直に語られたことに、大変共感を覚えました。私達の長い人生で楽しいことや嬉しいこともあれば、不幸なことや悲しいこともあるけれども、何が幸福で何が不幸かは、直ぐに決まるものではありません。嬉しい時には自己を律して、悲しい時には将来必ず幸せが訪れるものと信じて、毎日を明るく元気に過ごしてくださいというような講演内容だったと思います。
私はこの話を聞きながら、コヘレト3章1~11節を思い出しました。「何事にも時があり、天の下の出来事にはすべて定められた時がある。……神はすべてを時宜にかなうように造り、また、永遠を思う心を人に与えられる。それでもなお、神のなさる業を始めから終わりまで見極めることは許されていない。」私達はこの世の事柄と同時に永遠の世界を垣間見ることが許されているとは、なんと素晴らしいことではないでしょうか。